非認知能力を鍛える 〜大人の学習〜

投稿日:

産業医・リハ医のヤマコーです。個人のFacebookはこちら

「非認知能力」って聞いたことありますか?最近流行りなんです。

もくじ

  1. 非認知能力とは
  2. 健康経営を考えるとき、非認知能力に注目しよう

 

非認知能力とは

認知能力すなわちIQで測定できるような一般的知能、に属さない能力のことを総称して「非認知能力 non-cognitive skills」と呼びます。…これを読んで、どんなものをイメージしましたか?

  • 性格の良さ(ってなんだ?)
  • 意欲(やる気崇拝乙)
  • 粘り強さ(おいおい根性論か?)
  • 身体能力(体育会系かよ)

例としてあげたこれらのいずれもが、仕事の成果に影響を持ちそうだということはなんとなく覚えがあるのではないでしょうか。カッコの中のような感想を持ち、「認めたくない」と感じた方もいるかもしれません。では「頭の良さが全てではない」あるいは「テストだけで頭の良さは測れない」というのならどうでしょうか。こちらは大体の人は受け入れられると思います。

受け入れやすさはともかくとして、じゃあテストの成績じゃなければ何が大事なんだよ?という問の答が「非認知能力」です。え?それって定義からして「テスト以外」ってことだろうと?そうですね、これはMECEとか言うまでもなく当たり前で、答えになってませんね。

非認知能力の内容をMECEに網羅することは難しいですが、ここでは特に「何が大事なのか」の具体的な応えたり得るものについて紹介しようと思います。

例えば経済学者のボーウェン氏が米国の大学中退率の高さ(なんと40%!尤も、個人的には中退が必ずしもマイナスとは限らない、とも思っていますが…)を取り扱った研究では、①共通テスト(SAT)の成績と②高校の通知表の結果では、大学卒業に関しては通知表の内容のほうが影響が大きかったという示唆が得られています。①は単なるペーパーテストの結果ですが、②は非認知能力も反映されているという仮説に基づけば、「学力だけではやっていけない」という(やや乱暴な?)結論が導かれるわけです。では、通知表に反映される学力以外の要素とは?

あるいは就学前教育の研究で有名なヘックマン氏の研究では、高校に実際通い卒業した者と、認定試験(日本の大検のようなものですね)で同等の学力があると認められた者との間で、年収や就業率に差があった(おそらくは想像通りですが、前者のほうが高かった)という結果が出ています。「学力だけが重要なら、差はないだろう」という発想には否定的な見解というわけです。集団生活によって得られる要素があるのかもしれません

  • 【自制心】
    • 意志力が強い、合理的な判断ができる、といったことと関わります。
    • 「計画を立て、達成度合いを評価し、行動につなげる」サイクルを自分で回すこと(継続、反復)が自制心を鍛えるためには有効といわれています。
  • 【忍耐力】
    • 勤勉性とも読み替えられるかも知れません。自制心ともリンクしそう。
    • 基本的なモラルの習得(しつけを受けること)、計画をきちんと立て、継続することが重要とされます。
  • 【やり抜く力(GRIT)】
    • TEDの動画同名の書籍で日本でも有名になりました。聞いたことがあるという方は多いでしょう。これは上のリンクの動画の話者であり、書籍の著者であるダックワース氏が米軍の士官学校での人材評価に関わった際に考案したモノサシ(その名もグリット・スケール!)に由来するものです。自制心や忍耐力ともリンクしますね。
    • 「能力は伸ばすことができる」という発想をもつことが有効であると言われる反面、限界があるという刷り込みがマイナス効果を持つとされています。
  • 【メタ認知能力】
    • 俯瞰した状況把握。考え方や振る舞いを変えるには、あるいは確信を持って邁進するには、自分の状況が一歩外れて見られていないと難しいものです。
  • 【創造性】
    • 工夫する力、独創性。これについてはインプットをどれだけ迅速かつ自由に結び付けられるか、という比較的認知能力寄りのスキルなのかもしれません。
    • オリジナリティー、クリエイティビティーの啓発については、無数の評論がなされています。
  • 【社会的適性】
    • リーダーシップ、協調性、共感力などもここに含めても良いかもしれません。ただし、無制限にそれらを発揮するというのではなく、空気を把握しつつ、必要な方向に持っていくためにどう振る舞うか、ということが重要です。周囲の中の自分が見えている状態で良いパフォーマンスを発揮するでしょうから、メタ認知能力とも関わりが強いと思われます。
    • これについても、山のような本が出てますね。

 

健康経営を考えるとき、非認知能力に注目しよう

非認知能力は鍛えることができる。この一言が真実であるならば、ここれはあらゆるキャリアを歩む者にとって福音でしょう。

もちろん、身体能力も、IQの文脈に乗る「認知能力」も、鍛えることは可能です。また、非認知能力も含めたいずれにおいても遺伝や環境が関わってくることも否めません。それでも、誰にとっても今ココからできることがあり、ある道で行き詰まったときに別の方法を模索できるということは有益だと思います。

「ある本を読み/ある人と出会って/ある経験を通して、人生が変わった」という話は巷にあふれていると思いませんか。こうした体験談で語られるエピソードは“〜によってIQが伸びた”という理解には繋がりません。多くの場合、「〜によって」と「人生が変わった」との間に、「考え方が変わり、行動を変えたことで」というフレーズが入ることで説明を果たすことができるのではないでしょうか。

Merizowは大人の学習を「変容的 transformative」と表現しています(現状維持型の“学習”を批判し、このようなものであるべしとして持ち出されている語です)。対して子どもの学習は「形成的」と表現されます。つまり大人の場合、一度形成した「視野」を再構成し直す、別の視点を自らの中に持つこと、が必要なのでしょう。

私は、非認知能力は言語的に説明可能な概念であり(成功例から帰納し理解を得て、自分に演繹することで体験し、言語を介して間接的にも教えられる)、それゆえ成人でも可鍛性に期待しやすいと考えています。この「いつであろうと、鍛え始めるのに遅くはない」というところに、主にはオトナの話である健康経営の文脈の上での意義を見出したいと思うのです。上で触れたように、大人にとっても変容的であれば学習が可能とするならば、それはまさに非認知能力の成長、視点あるいはパラダイムの獲得といえるのではないでしょうか。

ちなみに非認知能力を育てることの有効性は、就学前教育の話題でよく持ち出されるテーマです。早期にインストールされた行動様式は、たしかにより長期間に渡り人生に影響を与えるでしょうから、それは当然のことでしょう。なお、幼児期に非認知能力を鍛えることは、経済学的にも高い効果をもたらすとされています(このあたりの研究については、前出のヘックマン氏に多くの業績があります)。ですが、これは成人にとっては希望がないということを意味しないと考えます。上で触れたとおり、十分可能だということを理論的に確信していますし、先人の見識とも合致しています。さらに蛇足ですが私個人も、環境が変化し、経験を積むことで自身の振る舞いや考え方がずいぶんと変化をしたと感じています。その変化の原因と詳細を拙いながらも言語化できることが非認知能力の可鍛性を信じさせてくれますし、この変化を成長・進化と捉えられること、そこに価値を感じます。

閑話休題。上記の「非認知能力を鍛える」方法をビジネス用語で言えば、「質の高いPDCAを実践する」ことに他なりません。仕事ではPDCAができるのに自分のこととなると難しいという方には健康増進の重要性を理解していただくか、「健康に“も”役立つこと」がもたらす目先の利益(ダイエット効果、モテ、節約…)をアピールすることが有効です(自分のことはPDCAできるのに仕事となると、という方に対してはその逆でしょうか…)。

これは個人の成長についても重要な事ですが、個人の集団である組織のマネジメントにおいても基本となる考え方だと思います。いわんやその一部であるとともに、組織と個人の自他共栄のためのブーストツールである「健康経営」に於いても、柱となる要素のはずです。

もちろん知識も重要です。が、知識を教えることの効率を上げるためにも、まず考え方、行動パターンではないでしょうか。或いはOJTの前にビジョン共有の徹底、といえば今風かもしれません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です